
私の場合の成功の要因は、一重にダイエットと同時進行させたことにある。つまり、ダイエットというものが、余りにきつすぎて、一日、三十本以上吸っていた禁煙の方まで、禁断症状の自覚が至らなかったということなのかもしれない。食欲というのは、我慢していると、一日中、ひもじい思いが続いていて、昼間だけでなく、夜中も腹がすいて目が覚めるほどだ。ところが、煙草に手を伸ばしたくなる瞬間を、一回、一回、丁寧にメモしてみると、第一に、気分転換したい時。第二に、退屈している時。その二種類にほとんどがおさまることに気づいた。そのほかは食事の後とか・・・。つまり習慣化されているにすぎないのだな、だから変えられるよね、と思うことにしたのだ。

ゆえに、食欲の我慢のついでに、ちょっとした工夫を試みた。つまり、何かひと仕事をして、椅子に座り、ほっとしたくなり、煙草に手がのびた時、ひと呼吸をおいて、自分に改めて聞いてみた。「ほんとうに、今、吸いたいのですか?」と。とりたてて、絶対禁煙などと決めていないから、「それでも吸いたかったら、どうぞ・・・」と目の前にライターもおいてある。すると、どうしても吸いたい煙草は二本か三本。一日、一本になった時に初めて、「これは、まずいな。本気で、止めてみようかな」と思った。なぜなら、その一本を吸うために、<一日のお楽しみは、そこにしかない>的な思考がぐるぐるまわり始めたからだ。

そこで本屋さんに行き、本を二冊買った。一冊は禁煙セラピー。もう一冊は一日一食だけで十分健康になれる、という内容のもので、この時も、ニコチンのことよりも優先順序はダイエットのほうだった。というわけで、机の中や引き出しにしまい込んであった煙草やライターを始末したのは十月あたりだと思う。

あれから五か月。身体というのは、こんなに軽かったのかと驚いて、何をするにも、これまでの二倍とはゆかなくとも一点七倍くらいの運動量が保たれている。一方、ダイエットの方は、あいかわらず苦労のしっぱなし。フーフーため息をつきながら、リバウンドしないように何か口にいれて飲み込んでは、一喜一憂している。
