また、女たちは、あのフランケンシュタインまがいの男がさりげなく「君の瞳に乾杯」など言うキザな台詞を、一度でいいから言われたいと目をうるませたはずだ。

それもこれもあの主人公が、哀感あふれるメロディ「時の過ぎゆくままに」に乗せて、愛する女を守るため、己の中に眠っていた大義のため、画面いっぱい男の心意気を噴出してくれたからだった。団塊世代の私たちにとって、良き時代のハリウッド映画とは、ある種の道徳心の基本となったと言っても過言ではないような気がする。

そのアメリカが、今、世界に恥をさらしている。
品位のかけらさえない一人の男が、民衆を救うつもりになって敵対心丸出しにして英雄気取りで登場しているのだ。この地上にいる人間の半分はおかげで毎日不快な思いをしている。けれど、そいつは平然と言ってのける。「お前たち、恥をしれ!」と。

BSドキュメンタリーでは、若い日の不動産屋トランプ氏の成功秘話を暴露していた。
ゴルバチョフが、訪米する際、「メトロポリタン美術館とトランプタワーに立ち寄る」というデマを自ら各紙に売り込み、玄関で待っているポーズまで掲載させたのだ。そうした商法でのし上がった男。嘘は言ったもの勝ちなのだ。広告料は払わずともメディアのからくりが宣伝してくれる。そんな男が核のボタンを握っている。

不謹慎なことを言って申し訳ないが、実は首を傾げて待っていることがある。
トランプ氏が、ここ一年から二年の間に弾劾裁判にかけられ、追放される日を。そうでなくては、なんのために我々は教育を受け、なんのために教養を身につけ、日々、品位を保った人間でありたいと願うことに意味が見つけられることだろうか。
