すると、こわばっていた身体が解きほぐされて、しばらく何も手がつかない放心状態に襲われていた。

やがて薄紙をはぐように疲労感がとれてくると、自分自身の心のあり方を眺める余裕が少しずつ生まれてきた。そして目の前には、膨大な自由な時間が自分のために用意されていることにはたと気づいた。それは衝撃に近かった。今は、まるで、果てしない荒野の前に立ち、その広さに戸惑い、立ちすくんでいるとでもいおうか。

人生百年時代。これから、どのように生きていったらいいのか。
私たち団塊世代の若い頃は、女というものは、親には素直に従い、夫には一歩引いて従うのが、素晴らしいとされてきた。常に自分の思惑よりも、他者を優先するように洗脳されてきたのだ。

ところが今は、個の主張の時代。いかなる立場にあろうとも自立した人間であることがベストとされる時代になった。だから私は、立ちすくんでいる自分を鼓舞するようにいいきかせている。「いいですか。しっかり地面に足をつけて立ちなさい。これからは頼れる人は誰もいない。何もかも自分ひとりで考え、自分ひとりで決める。まっさらな自由の中で生きる新たな青春時代が来たのですよ」と。

けれど、あと、もう、ひとつ。
この年代の青春はいつ、身体が壊れるかわからない。
壊れかかった身体に対して、諦めたり嘆いたりせず、苦しいリハビリに挑むこと。
それは、天から授かった命に敬意を払うことに他ならない。私は彼らを真の英雄と呼びたい。さあ、まっさらな自由に乾杯。
