「でも今回はちょっと、、、」と言葉を濁している。「この状態が続くようなら感染症の疑いがあるかもしれませんので、、、」

私は絶句した。つい数日前、四十年来の友人と飯田橋のお堀ばたにあるデッキで、青空の下、ランチをとった折、先日、亡くなった内閣補佐官だった岡本行夫氏の話に及んでいた。というのも友人のご主人は外務省で岡本氏と同期だったので、ごくみじかな出来事として耳に入り込んできたばかりなのだ。

それから毎日のように電話がきた。「今日は七度三分に下がりました」「今日は、、、」という次第で私は動悸が激しくなり、夜もろくろく眠れなくなった。「今は抗生剤の注射を打っていますが、これで下がらなければ入院となります。どこか希望の病院はありますか」

正直に記せば、その時の私の頭の中に怒涛のごとく渦巻いていたのは、夫の精神状態を心配するよりも、岡本氏のような突然死のようなものを想像するよりも、「入院する時には 妻であるワタクシメが付き添いをしなくてならないかも、、、。もしかしたら私も感染してしまうかもしれない。そうしたら、長年の友達も去ってゆく、、、」という忌むべきコロナ差別に怯えたのである。

先週、夫は入院した。施設 のケアマネさんが言ってくれた。「コロナの可能性がありますので僕たちだけでやります。奥さんは申し込みのみ頼みます」幸い、夫は肺炎だと判明した。今になって思えば、昨年の梅雨時も肺炎で入院していたのに、それをすっかり忘れてしまうほどのショック状態だった。いずれにしても、医療に携わる方々。施設でお世話して下さる方々。疑惑が出てきても、家族として一緒に暮らしている方々。そのひとかたならぬご苦労に首部は下がり、心中、お察し申し上げます。
