その思い出があるので、苦肉の策として、まずは公園にならすため、お下がりのカートにシンバを乗せて毎朝出かけることにした。犬達が交わっても、紐の長さがあるので三密にはならない。
そこで奇妙な出来事に遭遇した。
他のおかあさんたちの話によると、この中のボス犬は六歳半の雌のマルチーズだそうである。普段は、哲学者のような顔をしていてほとんど草の上に座っているのだが、たまたま、向こうから 「のび太をいじめるジャイアン」のような暴れん坊の真っ黒な大型犬がやってきて、仲間にちょっかいを出そうとすると、なんと、その小さなボスが勇敢にも、ジャイアンの向かって激しく吠え、時には身体を張って追い出してしまうのだ。
東屋で一部始終見ていた私は度肝を抜かれてしまった。シンバも食い入るように眺めていた。帰り道。少しずつ慣れてきたシンバは、カートに乗らず、自分の足で歩いている。途中、例の小さな巨人が地面にお座りをしていて、身動きせずに、飼い主に何かを訴えている。60代とおぼしき飼い主の男性は、腰を屈めて静かな声で語りかけていた。その時間。ゆうに十五分。
頭をひねりながらもニンマリして私は、シンバを引きずり、引きずり、帰路に着き、翌朝、その男性に尋ねた。「 あれから どうなさったのですか 」「 本人が納得して動き出すまで、待ちましたよ」プハーとなった私は息を吐き出した。「毎回そのようになさるのですか」「そうですよ。三十分でも待ちますよ」というわけである。自主性を促すとは、こういうことだったのか。
それ以来 、私も余裕のある時には実験を開始した。一歩一歩であるが 確かに シンバは変わってきている。外でも 自分を表現するようになってきたのだ。
ボス犬のパパの神対応に乾杯。