
その航平くんが、今回、鉄棒一本に絞り挑戦したにもかかわらず、最後の最後、落下してしまった。その後のインタビューでさりげなく「土下座して詫びたいくらいですよ、、、」「自分はもう主役ではないので、、、」と。
いつものように力まず淡々と話すので、こちらの目の方がうるうるしてしまった。その航平くんも御年、三十二歳。十九歳の時からだから、あしかけ、十三年、フアンの一人として見まっもきたことになる。

「ああ、歴代のチャンピョン達は、こうやって表舞台から去って行くんだな、、、」と胸を塞がれる思いで、勝手に航平くんの心の中を想像する。感情を外に出さぬ矜持。心の中には岩の穴から足を抜き取りことができない幼児がいて、その子がもがけばもがくほど足は取れなくなってゆく、そんな痛みを抱えているのでは、、、など。いずれにしても、もう、あの美しい、ダイナミックな演技が見れないと思うと、それだけで寂しい。

そして新しい主役橋本大輝くん。やはり十九歳。思えば航平くんが颯爽と彗星のごとく現れた時のインタビューで放った言葉は「プレッシャー。そういうものを感じたことは一度もありません」私は目を剥いて、本人の顔を見つめたほどだ。
七月二十九日の夕刊。アメリカの体操会のスターが世界からの重圧に耐え切れず棄権したと。取材に対して彼女は答えた。「以前ほど、自分を信用できない。緊張するし、楽しくも感じなくなった」自分を信用できない。なんと意味深い言葉だろう。

なんだか大舞台に登場する主役たちの気持ちに触れることができたような気がした。
ところで、私って自分を信用できる分野ってあったっけ、、、。
