
「半年たったせいか、ようやく自分が見えてきて、肩の荷を下ろしたというか。解放されたというか、、、。だけど、それって完璧に孤独と背中合わせになっているのね。ゾッとするくらい」二十歳も年下の彼は、「へえ、、、肩の荷を下ろすということは、孤独になるということですか、、、」と感慨深そうに言っていた。

告白すると、この半年で一番大きな変化はお金が使えなくなったことである。生まれて初めて、地に足をつけたとでも言おうか。事実状の保護者であった父と夫を亡くし、これからは、ひとり、自分で悩み、自分で選択して、ひとりで行動に移す。「自分を守るのは、自分しかいない」。長生きすればするほど老いるに従って、お金は翼が生えたように飛び去ってゆく。それを夫で実感した。それゆえに、眠れぬ夜もしょっちゅうあった。

夫は典型的俺について来いタイプの男尊女卑であったが、私のために公正証書を残していた。もちろん、サラリーマンであるから大した額ではない。けれども「自分が守らなくてはならないのは妻までである。娘に関しては娘の夫がすること」が持論で、陰でなんどか援助する私を厭いでいた。故に、「自分は、妻を犠牲にして仕事に打ち込んだ。娘を大学まで行かせ、世に送り出した。何ら責められる覚えはない。それが昭和の男の核だった」という手紙まで残してくれていた。

昨日、鎌倉高校の海に行った。天気は良かったのに、思いがけなくサーフィンの若者たちはおらず、静かな砂浜に出会えた。そこで、マスクをかけたまま、長い水平線の奥目指して、精一杯の言葉を轟かせた。
「おとたーん。ありがとう。私のこと、大切にしてくれてありがとねえ。これからは、一人で生きてゆくよー。自分の後始末の道をゆっくりと探しながらねえ、、、」次に声に出さず、思った。「なんか それも 楽しみだよー。教会のターコイズブルーの骨壷の横に並ぶその日まで、ねえ。待っていてねー」うっすらと口元を緩めながら
