
それにつけても二月頃だろうか。新聞に外苑の樹木伐採の記事を初めて見つけた時には、我が目を疑った。黄色い桜とも言いたいほどの、都民が誇りにしているはずの、あの、あの、あのイチョウ並木も含めた樹木、八百九十二本が、二棟の商業施設建設のために伐採されるという。ある記事では「植え替えます」とも記されているが、言い訳にしか聞こえない。都庁に怒りの電話を入れずに入られなかった。が、事はすでに決定済み。議会で承認され、一年後には着工されるという。

なんという暴挙だろう。聞けば、かつて、オリンピック開催前には、パブリックビューイングと称した建物を建造するため、代々木公園の樹木の剪定作業もしていたらしい。ただでさえ、国立競技場のために外苑の樹木は何百本も切られているというのに。その中の植え替えられたものも、だいぶ弱っているらしい。

わが家は、明治神宮西門から七分くらいの場所を最後の地とした。ひどく狭いマンションの一室であるが、そばに樹齢百年もする鬱蒼とした樹木があるからこそ選んだのだ。実際、苦しい時も嬉しい時も涙を滲ませにゆくのは、空に描かれた枝葉の見事な影絵を見上げている時である。同時に、秋になれば、外苑のイチョウ並木を犬とそぞろ歩きするのが、最高の芳醇行事であった。多くの都民が同じ体験をしているはずだ。

せめて、これからは、都議会議員の選挙時に、立候補者の中で「 都内の、何にも変えがたい貴重な樹木を体を張って守ります」と謳ってくれる人を選ぼうと思う。それしか道がないのが無念である。
