まず、管理をしてもらっている若者たちに危なげな庭木に添え木をしてもらったり、単一の乾電池を買ってもらってきたりしたが、ニュースを見るたびに、今回はただごとではなさそうだと追い詰められ、タクシーに乗り、防災予防一式を求めて大型ホームセンターに向かった。
レンタンの代わりになる 懐中電灯が残っていたので、ほっとして、「断水の時のためにトイレの凝固剤を下さい」と店員に告げたら、「それは何でしょう。仕入れていません」と言われて仰天した。この地は、湧水が元なので断水は、まず、ありえないそうだ。また、ガスの供給も都市ガスではなく、家に設置してあるプロパンだから、こちらも心配ないという。唯一、心配なのは、地面が 火山灰の混じった軟弱な地層なので、太さ高さに関わらずあらゆる木が倒木して電線に絡まれば停電となる。その倒木は、 稀に ガラス窓を突っ切るという。
朝、昼、夜とニュースを見るたびに苛立ちは増してくる。速度が遅くて方向がわからぬ故、日本中を震え上がらせておいて、ある日、突然、熱帯低気圧に変容したというではないか。おさがわせもほどほどにしてもらいたい。テレビやラジオに怒るつもりはないが、これではまるで宮沢賢治の「風の又三郎」の気まぐれな暴れん坊に翻弄されたようなもの。
なにしろ片足を引きずりながら、毎日、一箇所ずつ、重い鉄の鎧戸を時間をかけてヨタヨタと閉めていた。それでも、見上げるたびに、これまで幸福感を得てきた天窓には 鎧戸がなく、「あそこに倒木が突っ込んできたら、、、」と想像しただけで冷や汗を流したものだ。亡くなった方や怪我をした方には申し訳ないが、なんとも言えぬ おさがわせの夏だった。