2024年10月09日

頭の中が 真っ白に

 七十日の軽井沢生活を終えて東京に戻ってきた。連日の猛暑を連想して、なんだか皆に申し訳ないような気がする。この二か月、足の甲を剥離骨折していたので三回の食事を作る以外、日がな、緑を眺めていた。本を読んでいる最中も、愛犬の腹を撫でている最中も、目をあげては庭の樹木を眺め、じんわりとした穏やかな空気に包み込まれている幸福感を味わっていた。
image4.jpeg
 正直なところ、これほどまでに渇望し、自然を愛していたとは、これまで気づかなかった。とはいうものの生活していれば、生ゴミは次から次へと出てくる。初めはサポートしてくれる若者たちに捨ててもらっていたが、足が少し治ってくると自分でやりたくてうずうずしてくる。軽井沢に置いてある愛車ジムニーに乗って、別荘近くの小学校の裏手にある集積所まで行く。その場所は広場になっていて、大空に飛び立ちたくなるほどの大きな空があるのだ。
image6.jpeg
 もちろん靴は履けないので、サンダルで運転した。それも傷に当たらぬように男もののブカブカサンダルで。おまけに  運転するのは十か月ぶり。わずか五分とはいえ、最初は恐々と慎重に、舗装されていないデコボコ道の裏道をのろのろと行く。愛犬は 久々の車に大喜び。
image2.jpeg
 三度目になると、ついつい調子に乗り、十八号線の手前の脇道まで出てしまう。毎回、あぜ道に咲いているコスモスに目を奪われ、両腕に抱え込んでみたり、香りを腹の底まで吸い込んでみたり嬉々としていた。ある日、Tの字になっている細道から、突如、軽自動車が勢いよく飛び込んできた。瞬間、焦ってブレーキを踏もうとしたら、なんということだろう、ブカブカサンダルが脱げてしまった。
image0 (2).jpeg
 その途端、どちらが ブレーキで、どちらが アクセルかわからなくなってしまった。頭の中が白くなるとはこのことだ。その場で宙ぶらりんと化した固定包帯ぐるぐる巻きの左足。幸い、お相手様が 鋭い音を立てて急停車してくれた。「ああ、こういうことで老人の事故は起きるのだ」と肝に銘じる。おそらく高齢者の半分くらいは、こうした状況下の事故なのでは、と思わずにいられない。それを若い友人に話したら、つっかけの方がもっと怖いという。つっかけが脱げてブレーキの横に挟まり、踏んでもブレーキは止まらなかったそうだ。
image3.jpeg
posted by アンジェリカ at 11:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 立木アンジェリからのお便り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック