
正直なところ、これほどまでに渇望し、自然を愛していたとは、これまで気づかなかった。とはいうものの生活していれば、生ゴミは次から次へと出てくる。初めはサポートしてくれる若者たちに捨ててもらっていたが、足が少し治ってくると自分でやりたくてうずうずしてくる。軽井沢に置いてある愛車ジムニーに乗って、別荘近くの小学校の裏手にある集積所まで行く。その場所は広場になっていて、大空に飛び立ちたくなるほどの大きな空があるのだ。

もちろん靴は履けないので、サンダルで運転した。それも傷に当たらぬように男もののブカブカサンダルで。おまけに 運転するのは十か月ぶり。わずか五分とはいえ、最初は恐々と慎重に、舗装されていないデコボコ道の裏道をのろのろと行く。愛犬は 久々の車に大喜び。

三度目になると、ついつい調子に乗り、十八号線の手前の脇道まで出てしまう。毎回、あぜ道に咲いているコスモスに目を奪われ、両腕に抱え込んでみたり、香りを腹の底まで吸い込んでみたり嬉々としていた。ある日、Tの字になっている細道から、突如、軽自動車が勢いよく飛び込んできた。瞬間、焦ってブレーキを踏もうとしたら、なんということだろう、ブカブカサンダルが脱げてしまった。

その途端、どちらが ブレーキで、どちらが アクセルかわからなくなってしまった。頭の中が白くなるとはこのことだ。その場で宙ぶらりんと化した固定包帯ぐるぐる巻きの左足。幸い、お相手様が 鋭い音を立てて急停車してくれた。「ああ、こういうことで老人の事故は起きるのだ」と肝に銘じる。おそらく高齢者の半分くらいは、こうした状況下の事故なのでは、と思わずにいられない。それを若い友人に話したら、つっかけの方がもっと怖いという。つっかけが脱げてブレーキの横に挟まり、踏んでもブレーキは止まらなかったそうだ。
